大判例

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仙台家庭裁判所 昭和45年(少)2337号 決定

少年 I・W(昭二八・三・二八生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(審判に付すべき事由)

少年は前件(窃盗)により昭和四三年一二月一九日当裁判所において保護観察処分に付されたものであるが、昭和四四年一一月ごろから担当保護司との連絡を怠り、仙台保護観察所からの再三の呼出しにも応じないで、気ままな生活を送るようになり、無断外泊が続いたため、昭和四五年一一月三〇日引致状により同保護観察所へ引致されたこともあつた。同年一二月ごろから再び怠業および無断外泊を重ね、家庭内にあつては両親や兄姉に反抗してその指導に従おうとせず、仙台市内の繁華街を遊び歩いて警察官に補導されるといつたこともあつたため、同年一二月一九日同保護観察所から当裁判所に対し犯罪者予防更生法四二条一項による通告がなされた。

当裁判所は昭和四六年二月二日少年に対し観護措置をとつたのち、同月二〇日試験観察に付して少年の動向を観察していたところ、少年は当初立ち直るかに見えたが、やがて怠業が目立つようになり、A・B・C・Dら不良グループと共に仙台市内でボンド遊びをして補導されることが度重なる一方、家出中の少女を自宅に泊めて肉体関係を持つなど少年の虞犯性は拡大する一方であり、このままの状態では、将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞れが極めて大きいものである。

(適条)

少年法三条一項三号イ・ロ・ハ・ニ

(処遇理由)

少年の資質、環境については当裁判所調査官作成の調査票および仙台少年鑑別所技官作成の鑑別結果通知書記載のとおりであるからこれを引用する。

少年は表面的には年齢なみの落着きと応対態度を示すが、活気に乏しく、依存的であり、自分一人では何事も問題解決をできないといつた弱さを持つており、根気がなく、持続性に乏しい。また、行動特性として無力的である反面、上つ調子なところがあり、全体的に精神的発達が未成熟な段階にあるため、上記認定のとおり、易々と不良交遊や、ボンド遊びに身を委ね、度々の補導と、警告にもかかわらず怠惰な生活態度は慢性化して改まるところがない。保護者や兄姉による熱心な指導も少年にとつてはほとんど効果がなかつたことは上記のとおりであつて、在宅補導はすでに限界であり、施設への収容はむしろ遅きに失した感さえ持たれる。よつてこの際施設に収容保護し、日々の生活目標に向かつて根気よく生活する態度と、勤労の喜びを養成するよう指導するため、少年を中等少年院に送致することとし、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条一項、三項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 奥山興悦)

(事件番号)昭和四三年(一)第四〇一号

第四二条による

通告書

昭和45年12月19日

仙台保護観察所長 南部幸作

仙台家庭裁判所 御中

下記の者少年法第24条第1項第1号の保護処分により当保護観察所において保護観察中のところ新たに同法第3条第1項第3号に掲げる事由があると認められるので犯罪者予防更生法第42条第1項の規定により通告する。

氏名

年齢

I・W

昭和28年3月28日生

本籍

宮城県仙台市○○×××××

住居

宮城県仙台市○○××××-××

保護処分をした家庭裁判所

仙台家庭裁判所

保護処分をした年月日

昭和43年12月19日

保護観察の経過及び成績の推移

保護観察の経過

別紙の通り。

(I)

成績の推移

S43.12~S45.9

普通

S45.10以降不良

必要とする保護処分及その期間

少年法第24条第1項第3号

相当期間

審判に付すべき事由

(新たな保護処分を必要とする理由)

別紙

(II)

その他

参考事項

・保護者

実父 I.N 69歳 日本道路KK舗道係

実母 I.S 49歳 〃 炊事係

住居:少年の住居に同じ。

・添付書類

質問調書(写)(本人及び関係人)

電話連絡書(写)

別紙(I)

昭四三・一二・一九当庁の保護観察に付されてから、少年は、父親が不良交友の再燃を懸念して、少年の外出(就職)を認めなかつたため、しばらく、家庭内の雑仕事に従事していた。

しかし、少年自身に働く意欲が認められたので、昭四四・三・二四出頭を求め少年の真意を聴取する一方、担当者は父の調整に努めたが不調に終り、かつ両者間に齟齬が生じたため、やむなく昭四四・七・一担当変更した。

昭四四・七・一〇少年は○川○店(仙台市○○鉄材運搬業)の通転助手として働き始めたが、〃重労働〃という理由で同年八月下旬、退職した。このために、父と口論があり、昭四四・八・二八無断外泊があつた。

昭四四・九・一七少年と面接(呼出しにより出頭)、自重を促したところ、その後は、やや落着いて再び、家庭内の雑仕事に従事した。

しかし、昭四四・一一から、担当者への連絡が次第に疎遠となり、また、担当者が病気入院したこともかさなつて一時、連絡がと絶えた。

昭四四・二・一二担当者、再起不能のため、現担当者(斉藤長治郎保護司)に担当変更した。が同月、担当者宅訪問履行がなかつたため、昭四五・三・一二少年に出頭を求め、自省を求めた際、少年は、依然として、父との折合不良のため、横浜市居住の姉、信子の許へ移動し、再出発したい旨の意思表示があつた。係官は、慎重に考えるよう助言したが、この件は、実現には至らなかつた。

昭四五・三下旬より〃○一○輸〃(有)(仙台市○町○○○○○○)運転助手として働くようになつた。少年が比較的落着いて働いていたこともあつて、父は次第に少年に理解を示すようになり、両者の間に好転が見られるようになつた。しかし、同月以降再三の指示にもかかわらず、担当者への連絡は皆無であり、また、主任官の家庭訪問により(昭四五・六・二九)保護者に協力を保したが効なく、担当者の一方的な少年宅往訪によつて保護観察が行われた。

昭四五・一〇初旬、少年は仕事を怠け始め無断外泊が続いた。(兄嫁I・Yから担当者への連絡による。)

昭四五・一一・一七中央署少年係より「日中、繁華街を闊歩している少年を見かけていた。本日、友人の件で少年、当署に出頭している」旨、当庁へ連絡があつたため、同日長兄I・Zに当庁まで同伴させ、少年に無為徒食の生活に対する自省を求め、説示した。

しかし、翌一一月一八日から再び無断外泊を続けたため、昭四五・一一・二六仙台家庭裁判所に引致状請求した。

昭四五・一一・三〇午後一二時五〇分少年を引致、別添質問調書記載の申立があつた。少年自身〃今一度、チャンスを与えてほしい〃という決意を示し、また、父も〃少年、自ら、帰宅したことでもあり、今後は、父、長兄、次兄と同一職場で少年を働かせ監督していく〃旨、協力があつたこともあり、同日午後五時、少年の決意を励まして、身柄釈放した。

昭四五・一二・一より昭四五・一二・一〇まで、少年は次兄I・Sとともに、日本道路KKの現場で作業に精出した。(なお、一二月一日、父、同伴のうえ、始めて少年は、担当者宅を訪問し、あらためて決意を表明した。)しかし、長続きせず、一二月一一日より怠業し、同月一四日には、少年に注意した次兄I・Sと、とつくみあいのけんかをし、仲裁に入つた、父を足蹴りするなどの行為があり、翌一二月一五日から無断外泊を続け、現在に至つている。(別添電話連絡書記載父及び兄嫁の言による。)

しかし、昭四五・一二・一六、本人を捜し歩いた次兄I・Sが、仙台市内で本人と出合つており、(この時、本人は次兄に今晩かならず帰宅する旨誓つたが、帰宅はなかつた。)また、中央署少年係も本人に会つて注意を喚起していることから仙台市内に居ることは、ほぼ確実と思われる。

別紙(II)

少年は、

(1) 昭和四五年一〇月初旬〃遊びたい〃という欲求の赴くまま、家を出、一時、帰宅したことがあつたとはいえ、その際の父及び長兄、その妻の指導にもかかわらず同年一一月初旬まで無断外泊を続け、

さらに、

(2) 昭和四五年一一月一七日、当庁係官の面接指導にも従わず、同月一八日から一一月二九日まで無断外泊をし、

また

(3) 昭和四五年一一月三〇日、少年自ら〃家に落着いて働く旨〃誓約したにもかかわらず、同年一二月一一日頃から怠業し、同月一四日その少年の態度を注意した次兄に故なく反抗し、仲裁に入つた父を足蹴りするなどして翌一二月一五日から家庭に寄りつかず今日に至つている。

上記行為は、少年法第三条第一項三号イ・ロに該当し、

〈1〉現在、特記すべき家庭不和もなく、ことに、昭四五・一二月以降は、父、長兄、次兄、長兄の妻、担当者は協力して、少年の指導に努めたが、少年は全く意に介せず、自らの決意をいとも容易に忘れさつていく少年の性格傾向、

〈2〉また、担当者との心的交流を望まないところに自己の成長の意欲の乏しさを看取できること、

〈3〉保護者及び当庁の指導の実効がなく、少年の行状が悪化の一途を辿つていること等を考慮すると、犯罪への移行の危険性を見、審判に付して新たな保護処分を必要と判断するものである。

No・46-10氏名I・W

精神状況 記載者佐藤

(記載日四六・二・一六)

診断正常準正常精神薄弱精神病質神経症その他の精神障害( )

1知能2性格特性、心的力動機制等3精神障害

1 新制田中B1式I・Q=101

一般知能:普通域

2 情緒不安定

自我未発達で、社会的成熟もかなり遅滞している。

知能程度に比較して、自己洞察力は、きわめて脆弱。表面的には、年齢なみの落着きと応対態度を示すが、活気に乏しく、依存的で、自分一人では、何も問題解決できないひ弱さをもつている。

根気がなく、ねばり強くものごとに対処していくことができない。持続性、粘着性に欠ける。

自制力は、かなり弱い方で、現実的な、幼稚な欲求に支配されて、短絡的な、その場限りの行動をみせやすい。また、阻止されたり、抑えつけられることには、反抗的、攻撃的な態度をとつてくる。意志の自立性に乏しい。

行動特性として、無力的、消極的な反面、短気、我まま、軽卒、上つ調子といつたことがあげられる。

全体的に、精神的発達が未成熟な段階にあり、何かつかみどころがないといつた人柄を形成している。

総合所見 記載者 佐藤

(記載日四六・二・一六)

1 問題点とその分析 2処遇指針(保護・保健・職業学科教育・人間関係・保安等) 3 社会的予後 4その他

1 精神欄記述の如く、自我未発達で、社会的成熟もかなり遅滞しており、社会生活において、直面するさまざまな障害に立向つていこうとするには、きわめて弱い自我構造を有している。

「仕事」というものに対する考え方の甘さと同時に、正常な対人関係を維持していく技術の不足は、些細なことから不適応をおこしやすく、一つの職場に定着することは難しい状態にあるといえる。

特に、最近に至つては、ほとんど稼働することなく、享楽的場面での怠惰な徒遊を続けており、刹那的な快追求の構えが強くなりはじめ、問題性は、さらに深化しつつある。

現段階において、その性格傾向、また、一貫性のない保護統制が行なわれてきたこと考えるとき、すでに施設収容による厳しい生活訓練が必要な時期にきていると思われる。

ただ、初めての当所収容ということでもあり、この機会が立ち直おる動機づけとなることも予想されるので、しばらく、少年の生活態度の動きをみてはどうかと思う。

2 厳しく指導することが望ましい。

現在のところ、就職について具体的にはきめていないようであるが、職業選択は、慎重に行なうことが必要である。とにかく働くんだという意欲をもたせることが大切で、将来の目標を設定してやるとか、また、これが最後の機会であるという認識、危機感をもたせることも適当な方法の一つとなろう。

もし、生活態度に少しでも乱れが、出はじめたら早い時期に施設収容に踏みきるべきであろう。ズルズルと立ち直おりを待つような態度は、増々問題性を深化させることも考えられるので、却つて好ましくない。

3 予後は、暗いケースと思われる。

No・46-145氏名I・W

精神状況 記載者 佐藤

(記載日四六・九・一一)

診断正常準正常精神薄弱精神病質神経症その他の精神障害( )

1知能 2性格特性、心的力動機制等 3精神障害

1 I・Q・=101(前回46-10参照)

一般知能:普通域

2 前回参照

なお、今回目立つ特性を加味して要約すれば、引つこみ思案で消極的な性格であり、自分本位な孤立傾向を示す。爆発的ではないが、気ままで我慢することが苦手で快、不快原則に従つている。対人不信感強く、対人感情に歪みがみられる。

3 認められない。

総合所見 記載者 佐藤

(記載日四六・九・一一)

1問題点とその分析 2処遇指針(保護・保健・職業学科教育・人間関係・保安等)

3社会的予後 4その他

1 前回、試験観察で出所後、五か月程は真面目に働いていたが、その間にもボンド遊びなどをして享楽的場面から離れて健全な生活をしているとはいいがたい。

特に、仕事を変えてからは休みが多いこともあり、前回時程ではないにしてもボンド遊びをして不良仲間とのつきあいはあつたようである。

自己認識が甘く、かつ将来への見通しも甘く気ままに行動している面が多分にみられる。勤労意欲、多少はでてきているが完全なものではなく、真に自分のものとし身につけていない。

2 保護観察、試験観察と在宅での指導を試みてきたが依然問題行動が改まらないので、前回調べの如く収容保護が必要であろう。

指導にあたつては、今後の生活目標を定め、それに向かつて努力する心がまえを養成すべきであり、受容的話し合いによつて自己洞察を高めたい。やる気を起こさせることが第一であり力一杯、出きる限りやつたという仕事の喜びを味わせることが必要である。

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